12 入試問題に挑戦3!

E-roomへようこそ。このブログでは、学校現場における小論文指導の現実について、学校の先生を対象にゆるーく語っていきます。バックナンバーと合わせてお楽しみください。

小論文の試験でどのようなテーマが出題されるか。これは大きな問題ですよね。受験する学部に関連の深い内容のものであればいいのですがそうとも限りませんからね。想定外のテーマに対してどのように対処するか。こうしたことも対策としては重要になると思います。

目次

想定外のテーマにどう対応するか

想定外のテーマが出題されたとき、どう対応すればいいのか。
これについてはちゃんと作戦を立てておいた方がいいよね。
だって、想定外のテーマが出題される確率って結構高いですからね。

今回は大分大学看護学科の一般入試問題(令和2年度)を使います。
一緒に考えていきましょう。(実際の入試問題はこちら

〇問題文要約
「グローバル人材」の育成が急務であるとの論調がここ数年高まってきた。「グローバル人材」とは国際的な舞台で英語を使いこなし海外の人と対等に渡り合うことのできる人間のことを指しているが、これにはもう少し厳密な定義が必要である。そこで、文科省・政府から「グローバル人材」に求められる資質として以下のような見解が示された。
(1)英語力に限らず、語学力全般とコミュニケーション能力の重要性
(2)異文化理解と「日本人としてのアイデンティティ」が要求される。
(3)協調性・積極性・責任感・使命感

設問1 著者はこの文章に続けて、「日本人としてのアイデンティティ」という言い方にはかなり慎重な吟味が必要であろうと述べているが、これの意味するところを考察せよ。200字以内

設問2 「グローバル人材」に対するあなたの意見と今後の取り組みについて800字以内で述べよ。



「グローバル人材」ですって! 
さて、どうしましょうか。
今回もまた、「普通の高校生」の思考回路をたどりながら考えていきましょう。

まず、「グローバル」っていう言葉は知ってるはずですよね。さすがに。
それで、「グローバルな人材」って言ったら、世界的に通用する人材ってことでしょうね。
このことについてあなたの意見を述べよと言っている。
さて、どうしたものか。

課題文によると、英語が話せるとか海外経験があるとかいうだけじゃ「グローバル人材」とは言えないということらしい。コミュニケーション能力とか異文化理解とか協調性とか責任感とかが必要だって。

「グローバル人材」についてあなたはどう思う?
「グローバル人材」(を育成するための)今後の取り組みは?
これが「設問2」で問われていることですね。

その前に「設問1」がある。
「日本人としてのアイデンティティ」という言い方にはかなり慎重な吟味が必要であろう」の意味するところを述べよだって。

まあ、これは「日本人としてのアイデンティティ」が国粋主義的になったり、排他的な要素が強くなったりするものであってはならないみたいなことを言えばいいんでしょうね。近隣国との関係で言えば歴史問題なんかもありますからね。

この程度のことならちょっとした基礎知識があればいいんだけど…。どうかな。
書けない可能性はあるよね。基礎知識がなければ何も出てこないからね。
課題文にはヒントらしきものもないから、自分で時代背景を考えて書けっていうことでしょう。ここは予備知識があるかないか。
なければお手上げです。がんばって字数だけは埋めてください。


設問2に行きましょうか。
これからの時代は「グローバル人材」が求められているらしく、で、「グローバル人材」っていうのはただ英語が話せるだけじゃなくて、いろんな要素を兼ね備えていなくてはいけない。そういう人材を育成するにはどうすればいいか。
こんな感じの問題です。

こんなことわかるわけないですよね。
だいたい自分が「グローバル人材」じゃないんですからね。
その育て方を考えろって言われてもねえ。
何にも書きようがない。

こういうとき、どうすればいいのか。
いったん落ち着て考えましょう。

答えは「自分の武器を使え」です。


でも、ほとんどの高校生は目の前の問題に翻弄されてしまって「自分の武器」を使うことを忘れちゃうんです

それで、課題文に書いてあることをなぞるような文章を書いてしまうんです。

例えばこんな感じ。

語学力はもちろん大事だがそれだけじゃいけない!
異文化を理解し尊重する姿勢が大事だ!
(ここでちょっと具体例をあげる。韓国や中国に対するヘイトスピーチ的な例とか)
そして自文化にたいする知識とプライドも大切だ!

(日本人であることの誇りがないとね) 
そして世界中が協力して様々な問題を解決しようとすることが求められている!

(環境問題やら人種問題やら格差問題やらいろんな問題に積極的に取り組んでいこう!)

どうせこんな感じになるのがオチですよね。
みんな似たり寄ったりです。
こんな文章じゃその生徒のことが何にも表現されていません。

ちゃんと「自分の武器」を使いましょう。
そうすれば自分の立ち位置からこの問題にアプローチする道が見えてくるはずです。

バレー部の女の子の場合

さて、またまたバレー部キャプテンに登場してもらいます。

バレー部のキャプテンの武器はこんな感じでした。

諦めずに努力することが大切。
みんなで協力することが大切。
自己犠牲
他者に寄り添う姿勢
コミュニケーションにおいては、相手を思う気持ちが大切。
相手を知りたいと思う気持ち
相手の役に立ちたいと思う気持ち


これは看護師を目指すにあたって、本人が大切にしてきた思いを一緒に掘り起こしていったとときにあがってきた内容です。(詳しくは過去の記事をご覧ください→こちら

これは看護についての内容ですが、看護以外の分野にもそのまま当てはまることが多いと思います。

この辺のことがこの生徒の「根っこ」ですからね。
どんな分野のテーマが出題されても、ここから出発して考えていけばいい。


さて、この「武器」を問題にぶつけてみましょう。

「グローバル人材」でしたね。
この生徒はとくに海外で活躍したいとか外国に興味があるとかは言ってなかったので、「グローバル人材」なんて言われても最初は戸惑っちゃうでしょうね。
外国のことはよく知らないし、国際情勢にも疎いしね。
だから、その辺のことを考えてうろうろ歩いても何にも出てきません。

自分の「武器」との接点を探していきましょう。
「グローバル人材」っていうのは英語が話せるだけじゃだめでした。
語学力以外に次のものが必要だそうです。
異文化理解
自文化アイデンティティ
協調性・積極性・責任感・使命感


このうちの「自文化アイデンティティ」はちょっと荷が重そうですね。
さすがにこの子の発想のラインナップにはないことのなのでね。
無理はしない方がよさそうです。

「異文化理解」はつながりそうですよ。
本人はバレー部での経験からいろいろ学んだだけで、外国人とのコミュニケーションとは直接関係はないんだけど、たぶん同じでしょ。
バレー部の後輩も外国人も基本的な接し方にそう変わりはない。
他者に寄り添うこと
相手を知りたいと思う気持ち
相手の役に立ちたいと思う気持ち


同じ日本人なら言わなくても分かりあえることがたくさんあります。でも、外国人の場合はそうはいきません。知らないことや理解できないことなど驚くことがたくさんあります。

であるならば、なおさら
他者に寄り添うこと
相手を知りたいと思う気持ち
相手の役に立ちたいと思う気持ち

は大切になりますよね。

他者を理解するためには、その前提としてこちら側にまずは「相手を知りたいと思う気持ち」「相手の役に立ちたいと思う気持ち」がなければならない。

これはバレー部の活動の中で身をもって経験してきたことです。
まったく同じことを異文化理解に当てはめてもよさそうですね。

民族紛争や移民問題などニュースで大きく取り上げられているような具体例を出せるならばそれでもいいのですが、まあ、あまり無理をしない方が無難かもしれませんね。

もっと身近な「異文化」を使いましょう。
探せばちゃんとありますよ。
外を歩けば外国人はたくさんいるしね。話しかけられた経験くらいはあるでしょうし。好きな外国映画とかK-POPなんていうのも異文化との接点になりますよね。

「相手を知りたいと思う気持ち」「相手の役に立ちたいという思い」
鷲田清一風にいうと「他者への関心」ということになるのかな。

この辺を軸にして小論の構成を考えてみましょう。
きっと自分らしい文章が書けるはずです。

初級編⑬へ

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この記事を書いた人

1968年生まれ
東京学芸大学大学院修了
函館市私立学校に30年勤務
小論文を中心に指導

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入試問題に挑戦2! 試験当日は「自分の武器」で戦え!(初級⑪) | 文章練習室 さくら へ返信する コメントをキャンセル

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