⑩入試問題に挑戦1

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そこに戦略はあるのか

小論文入試って、どんな内容が出題されるかわからないですよね。
看護学科の入試だとしても、医療系の内容が出題されるとは限らない。
実際、名寄市立大学の入試問題は「食事」でした。(名寄市立大は看護学科も社会保育学科も栄養学科も同じ問題ですから医療系以外の出題の可能性が高いとは思いますが)
看護学科を受験するのならば、医療系に関する主要テーマは一応おさえておきますよね。インフォームドコンセント、地域医療、出生前診断、遺伝子治療、臓器移植、AIと医療など、医療系テーマだけでもいろいろあります。

医療系のテーマに関してはそれなりに勉強して、それなりに自分の意見なんかも用意して、みたいな準備はしているはずですよね。
でも、実際は何が出題されるかわかりません。
医療系の出題でも準備していないものが出る場合もあるし、医療とは全く関係ないテーマが出るかも知れない。

いずれにしても、生徒は出題された課題文を読んで問いに答えるわけです。

こときの生徒の思考回路はどうなっているのでしょうか。
おそらく、出題された課題文をとにかく読んで、問いに対してとにかく答えるということに終始しているのではないかと推測します。
名寄市立大学の問題で言えば、とにかく「食事」についての自分の考えをまとめて、とにかくそれについて書く。
きっとそんな感じだと思います。
当たり前と言えば当たり前ですね。

でも、よく考えてみてください。
このとき、一応用意していた内容はどうなっているでしょうか。
臓器移植や地域医療などについて勉強したことや、地域医療が出たらこんな意見を言ってみようとか。
事前に用意していたこうした内容は、入試本番で使わなかったばかりか、意識にも上ってこなかったと思います。

よく考えると、これっておかしいと思いませんか。
入試に向けていろんな準備をしますよね。で、出題内容がわからないわけですから、そういう前提でなんらかの作戦を考えているはずです。一応主要テーマに関して用意はするけど、それが出題される可能性はそんなに高くない。これくらいは誰でも想定しているわけです。だから不測のものが出た場合はこうしようとか、とにかくこれだけは書こうとか、多かれ少なかれ誰しも何らかの作戦を持って入試に臨んでいるはずです。最初からノープランでという人はいないと思いますよ。入試なんですから。

それなのに、実際はこの準備が何にも生きていないことが多い。
とにかく、目の前に出された課題文を読んで、今問われている内容に必死で答えて、それで終了。
事前の準備はけっきょく未使用のままで、そのまま忘れ去られていく。

出題された課題を前にして、事前に用意していた作戦を実行しようとしたけれども、その作戦は意味がないということをその場で悟り、仕方なく思いつくまま書くしかなかった。

これならわかります。
一応、用意した作戦を遂行しようとしたわけですから。
途中で急遽作戦を変更して、不十分な形ではあるがミッションをクリアしたということであれば、そこには一貫して戦略の意識があります。

でも、そういう人はほとんどいないですよね。目の前に出された課題文に圧倒されて、用意していた作戦はどこかに飛んでいき、実質的にノープランで書き終えてしまっている。

わたしはこういうふうになることが悪いということを言いたいのではありません


だって、こうなることは目に見えているんです。
だって、今までたくさんの生徒を見てきたんですから。
受験前にいろんなことを詰め込んでも本番でそれを発揮できた子なんてほとんどいない。
練習でできていたことが本番ではうまくできない。
入試の雰囲気に舞い上がって、課題文の内容が頭に入らない。
まだまだたくさんあります。

こうなることは目に見えているはずなんです。
目に見えているのに、それに対処しようとしていないことに問題があると言いたいんです、わたしは。



そうなることが目に見えているのは誰かというと、もちろん先生です。
生徒にはわかりようがありません。
だから、先生は生徒が受験するにあたってこうしたことを考えなきゃいけない。

事前にいろんな準備をしたとしても、実質的に無駄になるような準備になってはいけない。
その生徒の表現力や語彙力や持っている知識量やその他さまざまなことを総合して、その子にあった作戦を考えてあげることが大事になってくると思います。

次回に続く。

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この記事を書いた人

1968年生まれ
東京学芸大学大学院修了
函館市私立学校に30年勤務
小論文を中心に指導

コメント

コメント一覧 (2件)

  • […] 前回と前々回、実際の大学入試問題を解いてみました。最初は名寄市立大学の入試問題。(実践⑩・実践⑪)次に大分大学の入試問題。(実践⑫)どっちが難しかったですかね。個人的には大分大学の方が書きやすいかなと思うんですけどね。いろいろと話を広げられそうだし。手持ちの材料があればの話ですけどね。生徒さんにしてみたら「食事」の方がまだましなのかな。生活に関わることですからね。何にも書けないという最悪の状況だけは免れると思います。まあ、いずれにしても、今回のテーマは「自分の武器を使え」でした。どんな出題内容だとしても、焦ることなく、自分に書けることをしっかりと書ききる。そのための方法をお話したつもりです。「方法」だなんて大げさなことじゃないんですけどね。まずは自分の手持ちの武器で戦えるかどうかを考えましょうと。そういうことです。で、それぞれの入試問題を一緒に考えてみました。そんなに高度な文章にはなりませんよ。ただ、「自分を表現する」ということはできていると思います。全受験生の答案を見比べてみたらきっとわかるでしょうね。課題文の内容をなぞるだけの小論文が多い中で、しっかりと自分の考えを表現できている。これはけっこう評価が高いと思いますよ。もちろん、大学の難易度にもよりますけどね。ハイレベル入試ならばこれだけじゃさすがに太刀打ちはできません。でも、偏差値60未満くらいの大学ならば、十分勝負になると思います。で、それ以上に重要だと思うのが、受験生の満足度ですね。やっぱりこれまで長い時間と労力をかけて準備してきましたからね。それをちゃんと出し切れたということは大きいと思います。合否結果にかかわらず、入試の取り組み自体には納得できるんじゃないかな。こういうのって結構大事だと思います。 […]

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