11 入試問題に挑戦2

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どんな武器を持ってる?

問:現代の食事と人間社会についてあなたの考えを800字以上1000字以内で述べなさい。(名寄市立大学 実際の問題はこちら)

「現代の食事」の特徴ね。
食品加工技術とか流通革命とか核家族化とか、そういういろんな要素が合わさって「個食」化が進んだ。というようなことが問題文に書いてある。
これに何か加えられますかね。生徒が自分で考えて何か付け加えられればいいけど、あるいは別の切り口から「現代の食事」の特徴をまとめられればいいですけどね。
あまり期待できないかな。

次は「人間社会」との関連ですね。
人間は群れる動物だと。同じ群れる動物でもサルは食事の時は群れない。人間だけが複数で食事をする。食事という場の中で、家族やら友人やら同僚やらと信頼関係みたいなものを築いてきた。だから食事っていうのはめちゃくちゃ大事なんだ。
こんな感じですね。
これも、問題文の筆者が言っていること以外に何か思いつきますかね。
なかなか難しそうですね。

けっきょく、こう言う流れで考えちゃうと「自分の考え」が何も出てこないんです。
筆者様のおっしゃることごもっともでございます的な文章になっちゃってね。申し訳程度に表現は変えるけど、内容的には課題文で言っていることと何も変わらないっていうやつです。これに自分の体験談とかオリジナルの具体例を何とか添えてね。まあ、少しは体裁が保たれるかもしれませんけど。

ほら、結局こんな感じの文章になっちゃうでしょ。
この入試問題の場合は「食事」っていう身近なテーマだからまだいいんですけど、これがもっと難しいテーマだと本当にお手上げです。ほんとうに書くことが思いつかない。だって知らないんだもん。「夫婦別姓」とか「AI技術について」とか「移民問題」とか。具体例だって出しようがない。苦し紛れに何とか字数は埋めるけど「課題文のコピーかよっ」って突っ込みたくなるような残念な文章にしかなりませんよね。


「自分の武器」を使わないで書こうとするとこうなっちゃいます。

「自分の武器」っていうのは、自分の信念だったり、将来のビジョンだったり、自分が大切にしている思いだったり、そういうものから構成されているはずです。

これを使いましょうよ。
小論文の内容をこっちの方向に向けられるかどうか、まずは検討してみましょう。

バレー部の女の子の場合

それでは、わたしのブログに何度か登場している女の子を例に考えていきますね。
看護志望の生徒です。

バレー部のキャプテンで3年間一生懸命部活に打ち込んできた。自分は努力型の人間で、壁にぶつかっても決してあきらめないということを自分の信条としている。でも、いろいろと話を聞いていくうちに、皆と協力することの大切さや、他者に寄り添うことの大切さ、自己犠牲の精神などが彼女の根っこのところにあることがわかってきた。
「わかってきた」というのは、こうした部分はそれまであまり自覚してこなかったんですね。それがわたしとの対話を通してしだいに「わかってきた」。

今まで「武器」と呼んできたものは、「自分ストーリー」のことです。
「自分」とはどういう人間で、どういう価値観を持ち、どういうことを信条としているのか。家族や友人のこと、将来のビジョンなども含めて自分の物語を「見える化」したものですね。


この生徒が持っている「武器」で、先の入試問題にあたるとどうなるか。

「現代の食事」と「人間社会」という話ですから、
自分の「武器」でいうと
「自己犠牲」「他者と寄り添う」「皆で協力」
この辺が使えそうですね。

課題文では、食事の場において他者との「信頼関係」を築いてきたという言い方をしています。

この生徒もバレー部の活動において、部員たちとの「信頼関係」を築いてきた。
「信頼関係」を築くのに必要なことは、「自己犠牲の精神」であったり、「他人を思いやる気持ち」や「他人を尊重する気持ち」であったりすることを学んだ。
そして、どういう場で「信頼関係」が築かれたかというと、練習のコート上はもちろんのこと、部員の悩みを聞いていた部室であったり、放課後の教室であったり、学校帰りに立ち寄ったファミレスだったりするわけですよね。


「信頼関係」というワードからだけでも、これだけの手持ちの武器を持っているわけです。

「信頼関係」が「どういう場」で「どのように」築かれていくのかということを、この生徒はバレー部の活動の中から身をもって実感している。

他者に対して
この子のために何かしてあげたい
もっとこの人のことを知りたい
この人と仲良くなりたい

とかっていう気持ちが根底にあるわけですよね。

自分にこういう気持ちがないと他者も振り向いてはくれない。
こういうことを身をもって実感しているわけですよ。

だから、信頼関係ってまずは自分側の問題なんだよね。
相手に対するこうした肯定的な気持ちがないとうまくいかない。



この内容を「食事」の場につなげるのはそんなに難しいことじゃないですよね。
「食事」というのは、中でももっとも重要なコミュニケーションの場なのですから。

一つの食卓を囲みながらいろんな話をするわけだけど、そのときに目の前の人のことをもっと知りたいとか、この人と仲良くなりたいとかそういう思いをもっているかどうかっていうことが大事なんだよね。
食事の場っていうのは、そういう思いをお互いに育むにはもっとも適しているのでしょう。

どうでしょうか。
「自分ストーリー」から出発して、ちゃんと「食事」につながりましたね。


考える順番さえ間違えなければ、ちゃんと自分らしい文章に仕上がるはずです。

自分に書けること。
自分が書くべきこと。

試験ではこれをしっかりとぶつけるんだ!
そうした姿勢で試験に臨むことができれば、大きな失敗をすることはないと思います。

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この記事を書いた人

1968年生まれ
東京学芸大学大学院修了
函館市私立学校に30年勤務
小論文を中心に指導

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