11 入試問題に挑戦2

E-roomへようこそ。このブログでは、学校現場における小論文指導の現実について、学校の先生を対象にゆるーく語っていきます。バックナンバーと合わせてお楽しみください。

ともすれば形式的になりがちな小論文指導。実際に受験する生徒の役に立つものでなければ意味がありませんよね。受験にちゃんと対応できる力をつけさせたい。でも、それっていったいどうすればいいのでしょうね。少しでも先生方の参考になるお話ができればと思います。

目次

受験当日の失敗

試験の当日。
問題が配布されます。
まずは課題文を読む。
そして、問いを確認する。

問:現代の食事と人間社会についてあなたの考えを800字以上1000字以内で述べなさい。(名寄市立大学 実際の問題はこちら

こんなふうに問われたら、受験生は「現代の食事と人間社会」について考えますよね。
「現代の食事」の特徴ってどんなだろうとか、食事と人間社会ってどんな関係にあるのかなとか。


出題に対して自分の意見を述べるというのは一見すると当たり前のことのように感じられます。


でもどうなんでしょう。
そんなことうまくできますか?
けっこう難しいですよね。

だって、今まであまり考えたこともないようなことをいきなり質問されるんですよ。
これについてあなたはどう思いますかって。

そんなのわれわれ大人でもうまく答えられない。
ましてや高校生ならばなおさらです。うまく書けるわけがない。

今まで「食事」についてちゃんと考えたこともないし、「人間社会」との関係を考えながら食事をしたことなんてないですから。たぶん。
「食事」に関する問題が出るかもしれないと思って自分の考えを用意しているなら別ですけど、そんな生徒はほとんどいないでしょうしね。

だから、その場で考えるしかない。
「食事」について考えたこともない「普通の高校生」が、「食事と人間社会」についての意見を述べるんです。ほぼ無策の状態でね。これじゃまともな文章になるわけがない。

まあ、テーマが「食事」ですからね。何かは書けますけどね。課題文に書いてある内容をなぞるような形で自分なりの具体例をあげたりしてね。何とか字数は埋められるでしょう。
で、「食事というのは重要なコミュニケーションの場だ」とか書いて結論にするわけですよ。

きっとそんな小論文が量産されるんでしょうね。

試験当日の戦略は?

こういう状況をどのように回避すればいいか。

これは戦略の問題だと思います。

もともと自分なりの戦略があるはずなんです、受験生なんですから。
こんなテーマが出たらこう答えようとか、自分の長所を前面に出そうとか、こんな看護師になりたいという思いだけはしっかり書こうとか。

こういう「武器」を携えて戦場に来てるわけですよ。
なのに、いざ敵が現れたらその「武器」を捨てちゃうんですよね。
どうしてなんだろう。
ちゃんと「武器」を持ってきてるのに。



だから生徒にはこう言います。
ちゃんと自分の「武器」を使え! 

これが戦略です。
なんてことはないでしょ。

でも、こんな当たり前のことが重要な「戦略」になり得るにはそれなりの理由があるんです。

受験生ってみんな緊張してるから、見たことがない敵なんかが現れたらおろおろしちゃうんですよね。
で、頭の中が真っ白になって、どうしようどうしようってなっちゃうんです。それで、どうすれば倒せるかな、こうすればいいかなって無理なことばかり考えて、結局あろうことか敵に真正面からぶつかっていくはめになる。

だいたい、倒せるわけなんかないんですよ。
敵はRPGゲームで言ったらラスボスみたいなめちゃくちゃ強いやつなんですよ。弱っちい高校生なんか敵いっこない。
なのに、パニックみたくなって、倒さなきゃ倒さなきゃって焦っちゃう。

ラスボスに勝つんだったら、相当の知識と経験がなきゃね。
しかも初めて会うやつなんですよ。相当手強いんですから。

そんなラスボスと戦うためには、どんな敵が来ても大丈夫なように「ものすごい武器」をたくさん持ってなきゃいけない。じゃないと倒すのは無理です。
でも、こういうことができるのはテレビに出ている知識人や文化人みたいな人たちですよ。普通の高校生には無理な話なんです。

「自分の武器」で戦ってみる

そもそも、ラスボスを倒せだなんて誰も言っていないんですから。
だいたい、高校生は安い短剣みたいな「武器」しか持ってないんです。はなっから倒すことなんかできるわけがない。

だから倒せるわけないし、倒す必要だってないんです。
「自分の持っている武器」をつかって戦ってくれさえすればそれでいい。


小論文のテーマって解決困難な難題ばかりですよね。
環境問題、医療問題、人種問題、民族紛争…。


小論文の試験ではこういう問題が出題されますけど、こうした難題に対して解決策を出せとは誰も言ってませんからね。

書いてほしいのは「自分の持っている武器」です。
倒すのが困難なこのラスボスに対してあなたはどんな武器で挑みますか? ってきいてるんです。

人それぞれ「自分なりの武器」を持っていて、それを使った戦い方を披露すればいい。
その武器では問題が全面的に解決することはないかもしれないけれども、それによって今までにはない新しい可能性が開かれるかもしれない。
小論文っていうのはそういう期待を感じさせてくれるものであればそれでいいんです。
それで読む方は、ああこの生徒はこういう考え方をする人なのね、こういうビジョンを持っているのね、ってことがわかる。
自分を表現するっていうのはそういうことです。


だから生徒にはこんなことを言いいます。

どんなラスボス(テーマ)がきても焦るな、落ち着け。
すぐに問題を解こうとするな。

まず、「自分の持っている武器」で何とかなるかどうかを考えろ。

その「武器」で、敵の「どこか一部分」でもいいから「ひっかく」ことができる場所をさがせばいいんです。そして「ひっかく」場所があったら、そのことを書く。

そんなひっかき傷では、もちろん敵を倒すことはできません。
でもそのひっかき傷は、その生徒の気持ちのこもった渾身の一撃なわけです。

この生徒はこの敵に対してこういうところをひっかくというビジョンを持っている人なんだ。
読み手にはこういうことがちゃんと伝わると思います。
仮にそれが見当違いの意見であったとしても、問題文の内容をただなぞっただけの文章を書くよりはずっとましです。

だから、試験本番で、ちゃんと「自分の武器」を使うことができればいいんです。
そうすれば、結果のいかんにかかわらず、本人は納得できるはずです。
それまで準備してきたことを出し切れるのですから、「やり切った感」はあるでしょうね。
そういうことが大事だと思います。

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この記事を書いた人

1968年生まれ
東京学芸大学大学院修了
函館市私立学校に30年勤務
小論文を中心に指導

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