⑤入試小論文に必要なスキルとは

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まずは、土台づくりから

高校生が小論文を書く上でまず必要になるのは、その人の基礎となっている考えが何であるかを見つけ、それを整理することだと思っています。わたしはこれを土台づくりと呼んでいます。

なぜ、土台を作らねばならないか。
土台は、その人の立ち位置であり、発信基地であり、思考の中心となるものだからです。

「自分はこの場所から意見を述べる!」という感じで自分の「定位置」を作るんです。
そうするとかなり楽ですよ。どんなテーマのお題が来ても、基本的には似たような話をすることになる。そりゃあそうです。「定位置」から発信してるんですから。


土台がないとどうなるか。
テーマが変わるごとに自分の立ち位置を変えて、いろんな自分になって意見を言わなきゃならない。テーマが「地球温暖化について」のときは環境学者になったような感じで書き、「いじめ問題」の時には教師目線で書く。テーマごとに自分の立ち位置を変えるというのはとても大変なことです。こんなことは普通の人間にはできない。われわれ大人だって、自分の立ち位置っていうのをそれぞれ持っていて、そこからいろんなメッセージを発信している。だから、テーマが変わっても「ああ、あの人らしい意見だな」ということになる。

知識にも経験にも乏しい高校生が、自分の立ち位置も作らずに、与えられたテーマに沿ってその都度自分の考えを述べようだなんて、絶対に無理です。どんなテーマが来ても自分の意見をそれなりに言えるというのはかなりの高等テクニックなんですから。そんな芸当ができるのは、百戦錬磨のテレビコメンテーターみたいなプロ集団くらいなものではないでしょうか。

先に上げた基礎知識の勉強が不毛になってしまうのは、勉強自体に意味がないのではなく、自分の立ち位置すら決めていない状態で、ただ無策に勉強しようとしているからです。何の戦略も立てずにただ無暗に勉強をしても、それは時間の無駄でしょう。

まず最初に行うべきは「土台づくり」です。

入試レベルに合わせた対応も大事

どんなテーマが飛び出すかわからない入試小論文に、高校生が果たして対応することができるのかという問題について考えてきました。

そして、こうした入試に対応するためには「土台づくり」が欠かせない。
このことを確認しました。

これは小論文の試験ならばどんなレベルの入試にも共通して言えると思います。難関国公立大入試でも地元の専門学校入試でもこの点は変わりません。どんな生徒に対応するときでも、われわれ教員は「土台づくり」から始めればよい。
これは、教える側の観点です。

土台づくりの手順は以前の投稿に書いています。→以前の投稿

では、ちょっと視点を変えて、大学側の事情も考えてみましょう。

難関大学の場合は、高度な思考力や発想力を要求するところが多いですね。
だから、土台をベースにして、そこから可能な限りいろんな枝葉を広げていく必要があります。志望学部の専門内容はもちろんのこと、社会を取り巻く様々な問題と関わらせ紐づけながら、自分の思考体系を作り上げていく。こういう場合は、内容的にかなり踏み込んでいく必要があるので、先生側も大変です。いろいろ勉強しながら生徒と対話していくことになるでしょう。
これは、大学側がそういう生徒像を求めているので、先生も付き合ってがんばっているわけです。

でも、ほとんどの場合はここまでする必要はありません。そこまで高いレベルを要求されるのは、一部の大学だけですから。

ほとんどの学校は、やる気があってしっかり勉強してくれそうな生徒を求めている。小論文を通して、自分の考えを自分の言葉できちんと述べられるような能力を期待しているだけです。

だから、大学のそういうニーズにきっちりと応えられればいい。何も特別に小難しいことを書かせる必要はないんです。
焦って社会常識を詰め込んだり、使いこなせない文章フォーマットを会得しようとしたりしなくてもいい。そういうものは土台が形になり始めてから徐々に付け加えていけばいい。書き方も知識もそうした方が身につきやすいのではないかと思います。


でも、大学側が要求しているハードルが意外と高くはないのに、受験する側が勝手にハードルを上げてしまうということがしばしば起こります。
で、そういう感覚は教える先生の側にもあったりするので、生徒と一緒になってできもしない対策に無駄な時間と労力を費やしてしまうことになる。
こうしたことはできるだけ避けたいですよね。


だから、生徒には、何をするべきかということをしっかりと伝えることが大切だと思います。
するべきことは土台づくりです。


自分の興味関心はどこにあるのか。
自分が大切に思っていることは何か。
どういう生き方をしたいのか。


こうしたことを突き詰めて考えていけば、自分の根っこの部分は見えてくると思います。
自分の土台になっていることがらは、実はまだ自分の中でしっかりと整理されていません。だから、それを整理して意識化していく作業が必要です。
そうした作業がきちんとできれば、自己表現のための材料が見えてきますし、何を書けばいいか、自分には何が書けるか、ということがわかってきます。そんなに高度な文章にはならないかもしれませんが、少なくとも自分のことを表現している文章になるとは思います。

この線に沿って思考を進めていくことができれば、小論文で書く内容がはっきりしてくる。
どんなテーマが出題されても、自己を表現すればいいんだということがわかってくる。
だから、どんなテーマが出題されても、だいたい似たようなことを書くことになる。


土台づくりは、自分の定位置をはっきりさせることです。
だから定位置が決まればどんな問題もその定位置から発信することになります。毎回同じ場所から発信しているんですから、毎回似たようなものになっても不思議ではありません。

自分の書く文章の「基本パターン」ができればしめたものです。それを中心に文章を構成を考えていけばいい。そういうことができるようになってきたら、基本パターンのバリエーションを増やしていきましょう。そうすれば、もっと多くの問題に対応することができるはずです。難関大の受験準備も基本的にはこの延長線上にあるわけです。

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この記事を書いた人

1968年生まれ
東京学芸大学大学院修了
函館市私立学校に30年勤務
小論文を中心に指導

コメント

コメント一覧 (1件)

  • […] 「自分ストーリー」というのは、文字通り「自分の物語」です。小論文というのは基本的に自己表現です。そこに「自分」が表現されていることがいちばん重要です。じゃあ「自分」とは何か。それは自分の考えであり、自分の思いであり、自分の将来のビジョンであったりします。こうしたことが表現されているような小論文は優れた小論文と言っていいでしょう。小論文のお題は何が出るかわかりません。自分の受ける学科とは直接関係の内容なことが問われることだってあります。それでも、しっかりと設問要求を満たしながら自己を表現する。そうした力が必要なわけです。こう書くとそんな難しいことできない!って思われるかもしれませんが、そんなことはありません。自分の考え方を支えている「土台」さえしっかりと作ることができればどんな生徒にも十分可能なことだと思っています。その「土台」の大本にあるのが「自分ストーリー」です。「自分ストーリー」の作成とは、これまでの自分の歩みを振り返りながら、自分という人間を再構成し、再認識する。そういう作業です。この作業は、絶対に必要な作業です。けれども、高校生が自力でできることではありません。だから、どうしても先生のサポートが必要です。関連記事→初級編③・初級編④・初級編⑤・初級編⑥・初級編⑦・初級編⑧     つぶやき編⑤・つぶやき編⑥ […]

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