小論文で「使える材料」を探す
そうしたなかで「使える材料」は何かってことを考えなきゃいけないんですけど、ここでは具体的な例を使って説明していきますね。以前の投稿に何度か登場してもらったある生徒の志望理由書を使って説明しましょう。→ある生徒の志望理由書
生徒が書いた志望理由書は、大まかに言うと次のような内容でした。
1、バレーボール部の活動
2、看護師だった祖母のこと
3、自分の長所
バレー部のことを真っ先に書いたのは、それがいちばん自信の持てることだったからなのでしょう。「バレーボールがあるから今の自分がある」くらいに思っているかもしれません。それくらいがんばって打ち込んだことなんでしょう。こういう経験をしているなら書く材料はいくらでも見つかりそうです。
この生徒はバレー部のキャプテンとしてがんばった。大会実績こそ華々しいものはないけれども、それでも3年間バレーボールに全力を注いだ。そういう強い自負は持っている。
で、この子にバレー部で学んだことや得たものは何かって聞いてみると、「諦めない気持ち」とか「努力することの大切さ」とか言うんですよね。いちばん最初に出てくるのがそういう言葉であることが多い。
こういう感想自体はもちろん悪くはありません。それどころかとても素晴らしいことだと思います。スポーツを通じての人間形成という観点からすればお手本のような生徒です。
でも、これでは小論文は書けない。せっかく素晴らしい経験をしているのに、それをうまく文章に生かし切れていない。
だって「諦めない気持ち」ですよ。
そういうことならバレーボール部の苦しい活動を3年間続けてこなかった生徒だって思っています。というか、どんな人生を歩もうとも「諦めない気持ち」って当たり前に大切なことです。その当たり前のことを連呼しても胸に響くようなメッセージにはなりにくい。生徒がつよく感じている思いって、それ自体は尊いことなんだけど、小論文の材料としては「使えない材料」であることが多いんですね。
だから、視点をいろいろと変えてあげる必要がある。これは先生がリードしていくべきことですよね。生徒は一つの視点に凝り固まってしまっているので。「私はあきらめない精神力を養った!」っていうことばかり思っていますからね。だれかが視点を変えてあげなきゃいけない。まだまだたくさんあるんですから、材料は。
こういうときって、苦労したこととか、苦しかったこととか、それをどう克服したかってことなんかを聞いてみるといろいろと出てくるものです。
部活でいちばん困ったことってあった?
それはもうたくさん。いちばん困ったのは大会で結果を出すことができなかったことかな。練習メニューとかいろいろ工夫してもうまくいかなくて。顧問の先生にも怒られるし…。
で、どうしたの?
諦めないで頑張りました。くよくよしてもしょうがないし。前向きに行こうって。
あと、部活のメンバーもたくさん協力してくれて、本当に助かった。自分みたいな頼りないキャプテンでも見捨てずについてきてくれて。マネージャーにもたくさん世話になった。それから……。
家族も支えてくれたかな。朝起こしてくれたり、お弁当作ってくれたり、疲れて帰って不機嫌なわたしをそっとしておいてくれたり。試合にはかならず応援に来てくれたし…。
例えば、こんなことが引き出せたとします。これはこの子の口から出た言葉なので、この子の本心のはずです。自分が苦しい状況に立たされたとき、それを乗り越えることができたのは、自分の精神力によるところもあるけど、周りの人たちに助けられたという点も大きい。この生徒はそう感じている。ひとつの壁を乗り越えるためには強い精神力も必要だが、周りの人の協力も欠かせない。そういうことをこの生徒は実体験を通してつよく実感しているんです。
これって、まさしく「部活動を通して学んだこと」じゃないですか。しかも口先だけじゃなく実際に体験したことだから身に染みてそう感じているわけです。これが「本当にそう思う」ということですね。
一方で「理屈の上だけでそう思う」ということがあります。例えば「環境を守りましょう」とか「お年寄りを大切にしましょう」とか。
そういう考えを自分の意見として表現するのって実はすごく難しんです。だって「本当にそう思っている」わけじゃないから。その上辺だけの感じがすごく伝わっちゃうんです。まず文章構成がおかしなものになっちゃいます。そう思う理由が曖昧だったり、具体例がちぐはぐになったり。本当に思っているわけじゃないから、なかなかうまく書けないんですよね。どうしても伝えたいという思い気持ちが薄いからなんでしょうかね。それが文章に露骨にあらわれてしまう。
ほとんどの高校生はそんなに高い文章力を持っていません。だからさほど思ってもいないことをさもそう思っているかのように筋道を立てて表現するような技術は持ち合わせていません。高校生の場合は、「本当にそう思う」ということじゃないとちゃんとした文章になりにくいと思います。
だから最初に「本当にそう思う」という内容をその子の中から引き出しておくんです。で、それを使って「自分ストーリー」を構成していくわけです。そこを思考の土台にしていけば、その子の「本当の思い」を文章化することができるようになるでしょう。そういう内容ならば書ける。その本当の思いを伝えようというベクトルが働きますからね。「わたしは本当にそう思っているんだ」という思いが文章を構成する原動力になるわけです。
と、まあ理屈はそういうことなんですが、いつでもそんなにうまくいくわけではないですけどね。
先ほどの生徒の話に戻りますね。
彼女が「本当に思っていた」ことを一言でまとめると、「みんなで協力することの大切さ」ということになるでしょうか。
これなら小論文を書けます。例えば医療問題について何らかのことを述べなきゃいけないというとき、そこにはいろんな切り口があり得ると思いますが、この子は「みんなで協力」という切り口で書き進めればいい。これはチーム医療につなげやすいですね。
現代医療には様々な課題があって、そのすべてを網羅的に理解することは高校生には困難なことです。ただ、「自分の立ち位置」がはっきりしていれば、そこから紐づけられる課題についてはあらかじめ用意しておくことができますよね。そういうストックをできるだけ増やしておけば文章構成のバリエーションも多くなっていくので、何が出題されるかわからない小論文入試にも対応しやすくなると思います。
これを最初の「諦めない気持ちの大切さ」でやってみたらどうなるでしょうか。論の発展性が見込めないですよね。「みんなとにかくがんばろう!」という精神論で終わってしまいそうです。
「材料」の選択が明暗を分けると言ってもいいかもしれませんね。
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