E-roomへようこそ。このブログでは、学校現場における小論文指導の現実について、学校の先生を対象にゆるーく語っていきます。バックナンバーと合わせてお楽しみください。
前回は、これまで自分という人間を構成してきた過去の出来事を集めて「自分ストーリー」を作り上げていくという話をしました。先生がうまくリードしながら、生徒自身が納得できる物語を作っていくのが理想なんですけど、当然そんなに簡単にはいきませんよね。わたし自身、いろいろ失敗を重ねてきたました。そうした中で、こういう方法ならば比較的うまくいくのかなというお話をしていきたいと思います。
「材料」を俯瞰する
「自分ストーリー」を作る「材料」たちをテーブルの上に全部広げて眺めてみる。
「テーブルの上に広げて」というのはもちろん比喩ではあるんですけど、実際にテーブルの上にそれらを置くことができればいいですよね。
わたしの場合は、A3くらいのコピー用紙を用意して生徒から出てきた話を全部そこに書き出すようにしています。最終的にそれらのつながりがわかる相関図みたいにしたいので、書く場所を工夫したりながら書いてますね。
付箋紙なんかにどんどん書き出していくというのもいいと思います。ワールドカフェ的な感じで。これだと位置をいろいろ移動できるので便利ですよね。関係の深そうなものをどうしを近くに寄せたり、さらに移動して別のグループと関係づけてみたり。
とにかくこうしたものを俯瞰的に一度に眺めてみるという経験が大切だと思うんです。過去の出来事って時系列でわたしたちの頭に入っているから、近い時期の出来事だとそのつながりは見えやすいんだけど、ちょっと時間が離れちゃうとそれらの関係性が見えにくくなってしまう。本当はつながっているはずの時をまたいで起こったいろんな出来事が、自分の中ではうまく紐づけられていない可能性が高いんですよね。
そういうときは、それらを縦軸ではなく横軸に並べてみるといい。そうすればいろんな気づきが出てきて、自然とそれらの関係性みたいなものに意識が向かうようになると思うんです。
わたしは人間の脳や思考回路について勉強したり研究したりしたことがないので専門的なことはわかりませんが、私の経験上で言うと、これをやっているときの生徒の反応を見ていればわかります。この子の頭は自分の物語を作ろうとしているなって。
本当の自分って?
なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、相関図づくり自体はけっこう楽しい作業です。生徒の本音の部分が見えたりもして面白いですよ。
そうした中で「自分ストーリー」に使えそうな材料を、先生が見繕っていきます。
自分という人間をよく表していそうな材料。これを集めていくんですけど、これを生徒自身に任せちゃうとね。なんというか、つまんないというんですかね。前にも言ったんですけど、発展性のないようなくくり方をどうしてもしてしまうんです。
誰しも「自分はこういう人間だ」というふうに自分で自覚している自分ってあると思うんですけど、高校生の場合はそれがあまりにも強すぎて、それ以外の重要な自分というのが見えていないことが多いんですね。
少なくとも、これから小論文を書くという作業がその先にあるということを考えれば、高校生が思っている「自分で自覚している自分」という材料は使えないことが多い。
「自分ストーリー」っていうのはあくまで小論文を作成するために行っている作業ですからね。そっちにつなげられるものじゃないと使えないんです。でも、高校生の場合はそういう発想よりも「本当の自分は…」とかって考えがちになっちゃう。だから「本当の自分」から外れているように感じられるストーリーを先生が提案したときに、それを受け入れてくれないということがよく起こります。「それは本当の自分とはちょっとずれてるな」って感じで。若者というのはいつの時代も「本当の自分」を追いかけたがるものなので…。
ある程度の大人ならば自分とは何者かという問いにも飽きちゃっていて、「これも自分だけど、そういう自分もあり得るよな」っていうふうに柔軟に考えられるんだけど、高校生は純粋なのでそういう考え方を受け入れられないことも多い。「まあちょっと違和感はないわけじゃないけど、それも自分の一面であることも確かだし、小論文を書く土台としてはいいかもしれないな」くらいに考えてくれればこっちは助かるんですけどね。なかなかそうはいかない。
だから、「小論文的にはいいストーリー」を先生が思いついたとしても、それが本人にとって「強引なストーリー」になってしまったらなかなかうまくいかないんですよね。ここはもう生徒に寄り添いながら地道に作り上げていくしかない。そう思っています。


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[…] 自分の物語を徐々に組み立てていきましょう!(初級⑥) […]