E-roomへようこそ。このブログでは、学校現場における小論文指導の現実について、学校の先生を対象にゆるーく語っていきます。バックナンバーと合わせてお楽しみください。
想定外のテーマが出題されたときに、少しでも自分らしい文章を書くためにはどうすればいいか。前回に続きこのことについて考えていきましょう。
入試過去問を解いてみて
前回と前々回、実際の大学入試問題を解いてみました。
最初は名寄市立大学の入試問題。(実践⑩・実践⑪)
次に大分大学の入試問題。(実践⑫)
どっちが難しかったですかね。
個人的には大分大学の方が書きやすいかなと思うんですけどね。
いろいろと話を広げられそうだし。
手持ちの材料があればの話ですけどね。
生徒さんにしてみたら「食事」の方がまだましなのかな。
生活に関わることですからね。何にも書けないという最悪の状況だけは免れると思います。
まあ、いずれにしても、今回のテーマは「自分の武器を使え」でした。
どんな出題内容だとしても、焦ることなく、自分に書けることをしっかりと書ききる。
そのための方法をお話したつもりです。
「方法」だなんて大げさなことじゃないんですけどね。
まずは自分の手持ちの武器で戦えるかどうかを考えましょうと。
そういうことです。
で、それぞれの入試問題を一緒に考えてみました。
そんなに高度な文章にはなりませんよ。
ただ、「自分を表現する」ということはできていると思います。
全受験生の答案を見比べてみたらきっとわかるでしょうね。
課題文の内容をなぞるだけの小論文が多い中で、しっかりと自分の考えを表現できている。
これはけっこう評価が高いと思いますよ。
もちろん、大学の難易度にもよりますけどね。ハイレベル入試ならばこれだけじゃさすがに太刀打ちはできません。
でも、偏差値60未満くらいの大学ならば、十分勝負になると思います。
で、それ以上に重要だと思うのが、受験生の満足度ですね。
やっぱりこれまで長い時間と労力をかけて準備してきましたからね。それをちゃんと出し切れたということは大きいと思います。
合否結果にかかわらず、入試の取り組み自体には納得できるんじゃないかな。
こういうのって結構大事だと思います。
完成した文章はほぼいっしょ?
ところで、二つの大学入試問題を解いてみて、何か気づくことはありませんか?
ふたつの入試問題の答案を並べてみるとわかると思いますが、
この二つ、ほぼ同じ内容なんです。
名寄市立大学の過去問では、「相手を知りたい」とか「相手の役に立ちたい」という思いが大事だという内容でした。こういう思いがコミュニケーションの前提として必要であると。
これを部活動の例や食事の場にからめて論じたのでした。
一方、大分大学の場合はどうでしょう。
これも、異文化理解においては「他者への関心」がなければならないという内容にしました。コミュニケーションにおいては「他者への関心」がなければならない。これは日本人同士だろうが異文化間だろうが同じであると。
もちろん、課題文も設問も違いますので答え方は違いますし、具体例を選択する観点なども同じではありませんが、基本的な方向性は一緒です。
というか、同じになって当たり前ですよね。
だって、どちらの問題に対しても「自分の土台」から発信しているんですから。
「自分の土台」というのは、自分の武器が詰まっている倉庫のようなものです。
そして、ここにある武器を使って「自分ストーリー」を組み立てています。
小論文が自分のことを表現するものだとしたならば、「自分の土台」がしっかりしていないといけません。ここが曖昧なままならば、表現する自己自体がぼやけてしまいます。
ですから、「自分ストーリー」の構築については、このブログでしつこく繰り返してきました。
とにかくしっかりした土台を作ろうと。
しっかりした土台があれば、すべての問題はそこから発信することができます。
ここに自分のすべてが詰まっているわけですから、ここから発信されたものはとりもなおさず「自己表現」になっているはずです。
そして、土台の中につまっている武器は無限にある訳ではありません。
ですから、土台から発信された発言は、いつでも「似たり寄ったり」になります。
極端なことを言うと、どんな問題が来ても、「ほぼ同じようなことをいつも答えている」そんな感じになります。
一見するとこれはあまりよくないことのように思われるかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。
これは「自分の型」ができたということです。
「自分の型」ができると強いですね。
この型を中心に、問題に合わせてカスタマイズすればいいのですから。
カスタマイズのバリエーションを増やすことができれば、よりいろんな問題に対応しやすくなります。
もっと言えば、「自分の型」は一つだけではなく、複数個持つことができればいいですね。
より高度で複雑な問いにも対応できるようになります。
複数の型をもち、それぞれでカスタマイズしていく。
一つの土台から木の幹が伸び、そこから枝葉がわかれ、一つの大きな木のような体系が生まれるわけですね。
もちろん、そうなるまでには長い時間がかかりますので高校生の段階でここまでたどり着くのは至難の業です。
ですから、ここまで求める必要はありません。
まずは、土台をしっかりさせること。
そこから「自分ストーリー」を作っていくこと。
そして徐々にバリエーションを増やしていくこと。
できる範囲でいいですのでこうしたことに取り組んでいけばいいと思います。
いろんな学校の過去問で練習してみよう
試験当日に「自分の武器」をちゃんと使えるようにするにはどうすればいいか。
それは、ふだんから「自分の武器」を使って文章を書く練習をすることです。
当たり前ですよね。
ふだんからちゃんとできていないことを本番でできるわけがない。
でも、ほとんどの生徒はちゃんとした準備ができていないんですよね。
なぜかというと、土台を作っていないから。
しっかりとした土台をつくらないまま無暗に過去問題を解いたりしているんですよね。
で、
文章の書き出しはどうすればいいの?
具体例ってどれくらい書けばいい?
どの参考書を買えばいいの?
段落分けはどうすればいいの?
どんなことを書けば合格できる?
こんな質問ばっかりです。
で、せっかく書いてきた過去問も、土台ができていないものだから主張が曖昧で、根無し草のようにふわふわと浮いた感じの文章になっちゃう。
もうどこから直せばいいかわからない!
こんなことにならないように、まずは土台づくりに時間をかけましょう。
その上で、いろんな大学の過去問にチャレンジしてみるのがいいと思います。
どんなタイプの問題が来ても、まずは自分の土台をしっかり見つめて、そこからどんな意見を発信することができるか考える。
そういう訓練を数多くこなすことができれば、かなり文章力は上がってくると思います。
段落構成とか、接続詞の使い方とか、文末表現とか、具体例の選択とか、そういうことは練習の過程で自然と身についていくんじゃないかな。
どんな問題でも似たようなことを書くようになりますので、そのうち「自分の型」みたいなものが見えてくると思います。
こうなったらシメタものですね。
いろいろとカスタマイズしてみたり、あらたな「型」を模索したりすることができるようになると思います。


コメント
コメント一覧 (4件)
都内の私立中高に勤務しています。いろいろ参考にさせていただいています。教職に就いて生徒とともに夢を語るのは一番の喜びです。作戦会議中は本当にわくわくします。生徒の自分ストーリーを聞かせてもらうと、驚くことが多くあります。当の生徒はその驚きの理由が分からないみたいなのですが、驚くことがあるのはとても楽しみです。小論文Essayを使った教育活動Educationという取り組みに共感します。
コメントありがとう! このブログを使って小論文に限らずいろんな問題について発信できればと思っています。何かアイディアがあったらお願いします。麹町女子の教頭(?)って大変でしょ? がんばってね。ようこさんにもよろしくお伝えください。
[…] さて、またまたバレー部キャプテンに登場してもらいます。バレー部のキャプテンの武器はこんな感じでした。諦めずに努力することが大切。みんなで協力することが大切。自己犠牲他者に寄り添う姿勢コミュニケーションにおいては、相手を思う気持ちが大切。相手を知りたいと思う気持ち相手の役に立ちたいと思う気持ちこれは看護師を目指すにあたって、本人が大切にしてきた思いを一緒に掘り起こしていったとときにあがってきた内容です。(詳しくは過去の記事をご覧ください→こちら)これは看護についての内容ですが、看護以外の分野にもそのまま当てはまることが多いと思います。この辺のことがこの生徒の「根っこ」ですからね。どんな分野のテーマが出題されても、ここから出発して考えていけばいい。さて、この「武器」を問題にぶつけてみましょう。「グローバル人材」でしたね。この生徒はとくに海外で活躍したいとか外国に興味があるとかは言ってなかったので、「グローバル人材」なんて言われても最初は戸惑っちゃうでしょうね。外国のことはよく知らないし、国際情勢にも疎いしね。だから、その辺のことを考えてうろうろ歩いても何にも出てきません。自分の「武器」との接点を探していきましょう。「グローバル人材」っていうのは英語が話せるだけじゃだめでした。語学力以外に次のものが必要だそうです。異文化理解自文化アイデンティティ協調性・積極性・責任感・使命感このうちの「自文化アイデンティティ」はちょっと荷が重そうですね。さすがにこの子の発想のラインナップにはないことのなのでね。無理はしない方がよさそうです。「異文化理解」はつながりそうですよ。本人はバレー部での経験からいろいろ学んだだけで、外国人とのコミュニケーションとは直接関係はないんだけど、たぶん同じでしょ。バレー部の後輩も外国人も基本的な接し方にそう変わりはない。他者に寄り添うこと相手を知りたいと思う気持ち相手の役に立ちたいと思う気持ち同じ日本人なら言わなくても分かりあえることがたくさんあります。でも、外国人の場合はそうはいきません。知らないことや理解できないことなど驚くことがたくさんあります。であるならば、なおさら他者に寄り添うこと相手を知りたいと思う気持ち相手の役に立ちたいと思う気持ちは大切になりますよね。他者を理解するためには、その前提としてこちら側にまずは「相手を知りたいと思う気持ち」「相手の役に立ちたいと思う気持ち」がなければならない。これはバレー部の活動の中で身をもって経験してきたことです。まったく同じことを異文化理解に当てはめてもよさそうですね。民族紛争や移民問題などニュースで大きく取り上げられているような具体例を出せるならばそれでもいいのですが、まあ、あまり無理をしない方が無難かもしれませんね。もっと身近な「異文化」を使いましょう。探せばちゃんとありますよ。外を歩けば外国人はたくさんいるしね。話しかけられた経験くらいはあるでしょうし。好きな外国映画とかK-POPなんていうのも異文化との接点になりますよね。「相手を知りたいと思う気持ち」「相手の役に立ちたいという思い」鷲田清一風にいうと「他者への関心」ということになるのかな。この辺を軸にして小論の構成を考えてみましょう。きっと自分らしい文章が書けるはずです。初級編⑬へ […]
[…] 「土台」ができたら、そこから意見を発信していくことになります。まずは自分が受験する学部学科に深く関連するテーマに関して自分の考えを作ってみる。これには入試過去問を使って練習するのがいいでしょうね。場数を踏んでいけば、自分が「語れる内容」や「語るべき内容」というのが見えてくるはずです。そうするとある一定のパターンが生まれてきます。これが「自分の型」です。一度「自分の型」ができてしまえば、どんな問題が出題されてもだいたい同じようなことを毎回書くという感じになります。もちろん試験が違えば問題文が違いますし、設問も違う。だから、答えがまるで同じになるなんていうことはありません。でも、答える内容の質というか方向性みたいなものはいつも似たり寄ったりになるでしょうね。だって一つの「土台」から発信しているんですから。同じような感じになって当たり前です。で、それでいいと思います。どんな問題にぶち当たっても、毎回同じようなことを言う。考えてみれば我々だってそうですよね。いろんな社会問題に関して意見を述べなきゃいけないようなとき、教師という立ち位置から発言します。そこが我々の土台ですから。教育問題ならもちろんそうですし、環境問題やら人権問題やら民族紛争やら経済格差の問題やらいろんな問題について我々教師は教育者の立ち位置から発言するはずです。だって専門の学者ではなく、学校の先生なんですから、我々は。そうすると、どんな問題に関しても、発言する内容の核の部分はだいたい同じになりますよね。いろんな社会問題と教育を紐づけて考えていく。社会問題の内容は違っても、その問題を解決するための糸口だったり、問題の切り口だったりというのはだいたい同じになりますよね。だって我々の「土台」というか根っこの部分はもうかなり固まっていますから。ある特定のパターンが仕上がっています。高校生が自分の意見を述べるという場合も、基本的にはこれと同じ構造になると思います。でも、ほとんどの生徒は「自分の型」を持っていない。それは自分をしっかりと掘り下げていくという作業をしていないからです。自分の考えや信念や適性みたいなものを見つめなおすという作業ができていない。だから「自分ストーリー」も作れない。そういう意識がないから基礎となる「土台」ももちろんない。「土台」がないところから何らかの意見を発信するというのは無理というものです。適当なお茶濁しみたいなことは書けても、そこに「自分」というものを表現することはできない。だから小論文が書けないんです。書けないのは文章力の問題ではなく、自分を見つめていないからなんです。それができているならば、多少稚拙な文章になったとしても「自分の文章」が書けます。超難関大の入試以外ならば、このレベルで十分戦えるはずです。関連記事→初級編⑩・初級編⑪・初級編⑫・初級編⑬ […]